2006 10 18

10 18

というわけで昨日から切れ目なく続いている18日です。YCAM滞在最終日。
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昨日の日記もにも書いた通り、予定では深夜4時くらいに作曲終了してコンピュータに24ch分の録音、というはずだったんだけど3時の時点で4時に終了は無理という感じたったんで伊藤君には仮眠してもらって僕とエバラ君はひたすら追い込み。
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filmachineは全体的に音の三次元的な運動の可能性を追求していて、これは非常に今までの部分で成功していると思うんだけど、そもそもの意味としては音のfilm=膜を作るmachine、という意味だったんですね。
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で、この膜というのが非常に難しい。音がダイナミックに動くのではなく微細な動きと静止の間を循環しつつ、そこにあるような、という。
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最後のパートはこれに挑戦しようと決めていて試行錯誤していったんだけどなかなか困難極まっていたんですね。特に音が静止しているように感じる、というのは実際に静止していたら単なる再生と同じだからそうは感じられないし、当然のことながら音はモノではないんだけどあたかもそこにあるような、自分を包囲するようなという状態をどうしても作りたかった。
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カフカとかバラードに出てくる、空気が充満して自分を押し潰す感じというか。そういう知覚があることは想像できても音楽でそういうことはなかなか難しい。
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で、結果的に言うと出来たんですね。よかった。音量的にはリミットの半分なんだけど、音像の距離が2分から30秒というタイムスパンの違いをもって24chで徐々に中心に接近してきて最後は真空のようになる。
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響きは前半、というか全体で駆使したロジスティックマップによるジェット機のような音を100倍くらい遅くしたものとかそれをいくつかの周波数でカットしたものとかのレイヤーによるもので非常に柔らかい。
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不協和のものが迫ってきて圧倒して終わり、みたいな単純な図式にしたくなかったのと、干渉による波が非常に面白くてパルス的でもない、ランダムでもない連続した干渉によるリズムが出来た。
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全体の長さは前回の13分13秒から20分ジャストになりました。
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で、大急ぎでエバラ君、伊藤君と録音のセッティング。HDRに96k,24bitで収録。バイノーラルマイクでも収録。これが終了した時点で予定の10時を回っていて10時半頃からYCAMの阿部さん、渡部さん、ラスターのオラフとかいた人たちみんなで暗転にして試聴会。
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僕は正直憔悴しきっていたんだけど、このセッティングで聴けるのはしばらくないから隅々まで聴いた。阿部さんは途中から立ち上がって聴いていて終わった後にダンテの神曲みたいだと言ってくれた。オラフも寝転んだり立ち上がったりしてて、終わった後「amazing!」と言ってた。
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filmachineのプロジェクトはこれで完成した。今年の春からやっていたからすごく長かったけど、楽しかった。
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今までに聴いたものを作りたい、という気持ちが000以降の僕の唯一の願望でそれは一段階進めたと思う。あとやはり、これは一人では出来ないプロジェクトでATAKと池上さん、大海君、阿部さんを始めとしたYCAMのスタッフの尋常ではない集中力によるものだと思う。
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現在、こういうことが可能なのは稀なのではないかと思う。池上さんと始めた第三項音楽は一つ目の結節点になったと思うし今後の方向性も見えた気がする。
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また阿部さんとはインスタレーションのコンセプトから空間構成、タイトルにいたるまで喧々囂々と言っていいやり取りを続けていて、これは非常に刺激されたというか成長させてもらった。展覧会のオープンの前日の夜中に「歴史に傷跡を残さないようなものは作らないし意味がない」と確認し合うに至る道は平坦じゃなかったけど、密度が高い時間というのは振り返っても美しい。
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これから巡回とaudio versionの発表を考えているけどそれはまた追々に。
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とりあえず全ての作業が11時過ぎに完了。本当は阿部さんの運転でエバラ君と3人で萩に鮨を食べに行く予定だったけど休業日ということで断念。ただ、何時間寝てないんだ、という状況での長時間ドライブ+鮨というのは思いっきり全部吐いてしまう可能性があるから結果的によかったかもしれない。
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なのでちかくの「あかぎ」という美味しい日本料理屋で刺身定食。後にフランクでコーヒー。一度部屋に戻って風呂に入って(入浴剤を買えばよかった!)荷物をまとめてYCAMに戻ってからはデータのバックアップなど。さすがに椅子に倒れて1時間くらい眠りました。
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で,17時にタクシーが来て空港へ。飛行機の中では3分も起きてなかった気がする。
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しかし無事に終わってよかった。ある種完成している作品に追加するのは非常にリスキーで、クオリティを下げる可能性も蛇足を作る可能性もある。ただ今回の制作は本当にやってよかった。これはずっと作業を共にしていたエバラ君とも話していたんだけど一山超えた気がする。 
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みなさまどうもありがとう!