Android Opera – Scary Beauty | The National Museum of Emerging Science and Innovation
2018-
アンドロイド オペラ『Scary Beauty』
ARTIST: Keiichiro Shibuya (Concept, Composition, Direction, Piano) + Alter2(Vocal, Conducting)+ Orhestra
Performance History
PLACE/DATE:
日本科学未来館1階シンボルゾーン
2018年7月22日(日) 20:30開演
Robert-Schumann-Saal, Düsseldorf, Germany
2019年3月13日(水) 20:00開演
SUMMARY:
アンドロイド オペラ『Scary Beauty』
本作品は、昨年2017年にオーストラリアで発表されたアンドロイド・オペラ『Scary Beauty』をプロトタイプとした、新しいバージョンでの新作アンドロイド・オペラである。世界の人工生命研究者が集うALIFE 2018(人工生命国際学会)のパブリックプログラムとして日本科学未来館(東京・お台場)で発表された。
AI(人工知能)を搭載したアンドロイド オルタ2(Alter2)が30名に及ぶ人間のオーケストラを指揮し、それを伴奏に自ら歌う。演奏に際した音楽全体のテンポや強弱はアンドロイドが自律的に決定し、人間はそれについていくことしかできない。
これは宿命的に加速する「自らが生み出したテクノロジーに従属することでしか生きていけない人間」の縮図を端的にみせるオペラであり、人間とテクノロジーの関係性の過渡的状況のメタファーでもある。
作曲とピアノを渋谷慶一郎が担当、実際の演奏の際に起こるであろう人間の想像を超えた急激なテンポや強弱の変化、それに伴う歌唱表現の極度な振れ幅は全てアンドロイドが自ら決定し、作曲された音楽作品の新たな可能性を引き出す場合もあれば、破壊する可能性もはらみつつ音楽は進む。
世界的なロボット学者である石黒浩氏(大阪大学教授)のアンドロイド「オルタ2」に同じく世界的な人工生命の研究者である池上高志氏(東京大学教授)によるAIの自律的運動プログラムが搭載されたとき、このプロジェクトは始動した。
世界のロボット、ALife(人工生命)を代表する石黒、池上という二人の際立った知性と渋谷の音楽が拮抗することで音楽と我々=人間、アンドロイドの関係は激しく振幅し揺れ動き、更新されていく。
歌われるテクストは現代フランスを代表する小説家であるミッシェル・ウエルベックによる奇妙なラブソング、ウィリアム・バロウズのカットアップをディープラーニングでさらに切り刻んだテクスト・リーディングといった極めて危うく鋭い知性、言説の抜粋から成っている。
また、今回の公演に発表される新作として、20世紀を代表する哲学者であるルートヴィッヒ・ヴィトゲンシュタインの遺作である「確実性の問題」の抜粋をWord2Vec(文章内における各単語の意味をベクトル表現化するプログラム)を用いて解析、各単語を3次元ベクトルに変換し、得られたベクトルの各成分を音高、音価、音の強弱に対応させることで、テクストから音楽への自動作曲を用いた作品も発表される。
そして、これらの言わば「人類最後の7つの歌」をアンドロイドが歌うことで恐怖と感動が入り混じった「新たな感情」が生成されるだろう。ここでは単一の物語を時間軸に沿って展開していくという構成をとっていない。そして、近い未来にはリズムやテンポだけではなく、演奏箇所の選択やカットアップもアンドロイド自身がリアルタイムで行い、別々の音楽と物語が偶発的に断片化されては接合されていく、新しいアレンジ/リミックスによるオペラが可能になるだろう。
CREDIT:
「Robert-Schumann-Saal, Düsseldorf, Germany(2019)」
コンセプト・作曲・ディレクション・ピアノ:渋谷慶一郎
ヴォーカル・指揮:オルタ3(Powered by mixi, Inc.)
オーケストラ演奏:
The Japanese Philharmonic Düsseldorf
システムアーキテクト・エレクトロニクス:ことぶき光
「オルタ」シリーズ共同研究:石黒浩、小川浩平、池上高志、土井樹
オルタ3ソフトウェア設計・開発:升森敦士、丸山典宏、株式会社オルタナディヴ・マシン
オルタ3シュミレーター開発:株式会社ミクシィ
オルタ3パフォーマンス制御・開発:神田川雙陽(劇団粋雅堂)
照明:藤本隆行 (Kinsei R&D)
音響:金森祥之、工藤優(有限会社 オアシス)
映像:吉田佳弘
テクニカルアシスタント:ジョンスミス
サポートプログラミング:百々政幸、山口慎一
舞台監督:尾崎聡
演奏アドバイザー:板倉康明、川島素晴
スコア作成:金田望、鈴木理
ボーカロイドサポート:ジュスティーヌ・エマール
広報:高見直樹(株式会社ワーナーミュージック・ジャパン)
制作:大木奈緒美、神田圭美、吉川佳菜
プロデューサー:阿部一直、小川滋
エグゼクティヴプロデューサー:増井健仁(株式会社ワーナーミュージック・ジャパン)
プロデュース:株式会社ワーナーミュージック・ジャパン/アタック・トーキョー株式会社
特別協力:大阪大学石黒研究室、東京大学池上研究室、日本科学未来館、株式会社オルタナディヴ・マシン、株式会社ミクシィ
協力:株式会社イニット・インク、クリプトン・フューチャー・メディア株式会社、パイフォト二クス株式会社
スペシャル サンクス:木村弘毅(株式会社ミクシィ)、内田まほろ
「日本科学未来館(2018)」
コンセプト、作曲、ディレクション、ピアノ:渋谷慶一郎
ヴォーカル、指揮:オルタ2
オーケストラ演奏:
国立音楽大学学生・卒業生有志オーケストラ
アンドロイド開発、共同研究:石黒浩、小川浩平(アンドロイド制作)、池上高志、土井樹(アンドロイドプログラミング)
システムアーキテクト・エレクトロニクス:ことぶき光
サポートプログラミング:百々政幸、山口慎一
照明:藤本隆行
音響:金森祥之
映像:涌井智仁
舞台監督:尾崎聡
テクニカルアシスタント:ジョンスミス
オーケストラ演奏統括:川島素晴
オーケストラ演奏指導:板倉康明
スコア作成:鈴木理
サウンドプログラムサポート:宮田大地
ボーカロイドサポート:ジュスティーヌ・エマール
スーパーバイザー:増井健仁(株式会社ワーナーミュージック・ジャパン)
制作:大木奈緒美、神田圭美、中村桃子
主催:ALIFE Lab.
共催:日本科学未来館
特別協力:大阪大学石黒研究室、東京大学池上研究室、株式会社オルタナディヴ・マシン、キャノンマーケティングジャパン株式会社
協力:株式会社イノベーター・ジャパン、株式会社ワーナーミュージック・ジャパン、株式会社ヴァリアス・ディメンションズ、株式会社冬寂、株式会社ヤマハミュージックジャパン、クリプトン・フューチャー・メディア株式会社、NATIVE INSTRUMENTS JAPAN株式会社、株式会社ハイ・レゾリューション、カシオ計算機株式会社、バイフォトニクス
株式会社、有限会社タマ・テック・ラボ、Studio ATLAS
協賛:株式会社オレンジ
助成:公益財団法人東京都歴史文化財団アーツカウンシル東京
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僕たちは見つけにくく忘れやすい。
-Scary Beautyの世界初演について-
率直に言って今回の公演の準備、制作は困難を極めた。というかこれは実現できるのか?と思う瞬間が何度もあった。困難の理由はいくつもある。
空気駆動のアンドロイドは指揮のような機敏な動きに向かない。オーケストラと指揮者の間には習慣的な約束がいくつもあるが、それをアンドロイドに学習させても人間の指揮者の劣化版にしかならない。そもそもオーケストラは大人数の演奏者から成っていて少なくない数のリハーサルを必要とする。これがもしコンピュータ・ミュージックだったら直接アンドロイドと接続して様々な信号を送り相互に操作することができる。今回の場合は僕がコンピュータでシュミレーションして作曲、オーケストレーションしたデータを楽譜に置き換え、オーケストラ団員に渡しリハーサルを反映して細かく修正するというプロセスが続いた。
では、なぜこんな困難を自ら設定したのか?
アンドロイドのプログラム開発を担当した池上高志と未来館のリハーサルの帰りに話していたら、彼は2013年のTHE ENDのパリ公演の後、僕がラジオで次はアンドロイドでオペラを作ると話していたのを覚えていると言っていた。確かにこのプロジェクトの発想の元は2013年のパリに遡り、何度も流れそうになりつつこの5年間、僕は虎視眈々と実現のタイミングを狙っていた。粘り強く、という言葉は全く相応しない。アンドロイド・オペラは僕の体の一部になって、考えを巡らせリサーチも続け、ほとんどの読書はアンドロイドが歌うテクストを探すことに紐づいていった。
困難な問題設定は解決した時には作品の力となる。これはテクノロジーオリエンテッドな問題設定をあえてしないということでもある。いまできることから発想しない。想像力の範囲が現状のテクノロジーに依拠しているようでは作品も僕も生き残れない。
しかしアンドロイドによる指揮の開発とオーケストラの協働は困難を極めた。プログラムは何度も開発を繰り返し幾重にもレイヤーされ、修正してというプロセスは「人は何をリズムと感じるか?心拍と感じるか?」という問題に辿り着いた。
池上研究室の土井樹と現代音楽家の川島素晴、僕と池上、ことぶき光は未来館に泊まり込み、アンドロイド相手に無人のリハーサルを繰り返した。その結果、「アンドロイドの指揮の腕の動きだけに注力するのではなく、人間の呼吸のような肩、腰の上下運動の反復を与える」ことがオーケストラとアンドロイドによる指揮のコミュニケーションを格段に容易にするという結論に到達した。実際、その後のリハーサルではオーケストラメンバーが「この指揮ならイヤホンでクリック聴かなくてもいけるかも」と言いながらイヤホンを外してアンドロイドの指揮だけを見て格段と自由に演奏するメンバーが続出した。
これは普遍的な問題でもある。つまり、人間がアンドロイドに対して出来るのはプログラムしたり自律性を与えたりすることだけではない。人間のオーケストラはアンドロイドと一緒に演奏する過程で人間のそれとは確実に違う指揮から、いかに一緒に演奏することが可能かを探り、発見することもできる。このことを僕たちは忘れやすい。
アンドロイドの指揮に呼応して咀嚼して演奏するオーケストラ。そこには最初に僕がつけたタイトル「Scary Beauty」とは全く別な意味での”Scary Beauty”=奇妙な美しさが生まれていた。このとき、人間とアンドロイドの距離は少し近づいた気がする。
そしてこれはオーケストラの演奏統括を担当した川島が最初にオーケストラメンバーにこのプロジェクトを話したときに若い団員から言われた言葉、「どうやって息をしていない指揮者とわたしたちは演奏したらいいんですか?」に一周回って帰結する。僕たちは呼吸をして影響し合う。こんな当たり前なことを僕たちは見つけにくく忘れやすい。
その後に制作した本公演のための新作「On Certainty」(ヴィトゲンシュタインのテクストによる「確実性の問題」)には、コンピュータで作った人間の呼吸音を無限反復して入れることにした。人工の呼吸を見れるだけではなく聴けるように。それが人間とアンドロイドに少しの自由をもたらすように。
追記:
この公演は後年、語り継がれるくらい荒唐無稽なものだったと思う。フェスティバルでもなければ委嘱でもなければスポンサー公演でもなく、ただ一体のアンドロイドの周りに集まって協働し無理難題を徹底的に探求するという、この狂気をすべての人に。そして芸術とはこういうものだと思う。
この狂気と限界を一緒に超えてくれた制作スタッフ全員、アンドロイドとオーケストラに本当に感謝したい。
2018.7.18
渋谷慶一郎