2016 02 26

new release
Playing Piano with Speakers for Reverbs Only Keiichiro Shibuya

渋谷慶一郎のニュー・アルバム「Playing Piano with Speakers for Reverbs Only」が配信によりリリースされます。

 

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2016年2月26日12時配信開始
5.6MHz DSD+mp3
24bit/96kHz

 

01. When Attitudes Become Form
02. For Death
03. Our Music
04. J.S.Bach BWV1056-2 Largo
05. Time and Space
06. Mother Song
07. Arnold Schönberg Kleine Klavierstücke Op.19-1 Leicht, zart
08. Johannes Brahms Intermezzo Op.118-2
09. Blue Fish
10. Ballad
11. Sacrifice
12. Ran Across the Bridge
13. Spec
14. Heavenly Puss
15. Open Your Eyes
16. For Maria
17. Memories of Origin
18. My Foolish Heart

 

Piano: Keiichiro Shibuya (STEINWAY Model-D)
Location: Spiral Hall
Date: December 26, 2015
Reverb Designer: Yoshiyuki Kanamori (Oasis Sound Design)
Recording Engineer: Toshihiko Kasai
Mastering Engineer: Kentaro Kimura (KIMKEN STUDIO)
Producer: Susumu Kunisaki (Sound & Recoding Magazine)

 

All sounds captured by KORG MR-2000S (1bit/5.6MHz DSD)

 

Lighting Design: Masayoshi Takada
STEINWAY Model-D: Takagi Kravier
Concert Direction : Shoya Suzuki (ATAK)
Photographing: Kenshu Shintsubo

 

© 2016 ATAK / Rittor Music, Inc.

 

このコンサート「Playing Piano with Speakers for Reverbs Only」は 2015年9月に行われた完全ノンPA、アンプラグドのピアノソロコンサート「Playing Piano with No Speakers」のバージョンとして考えられた。 スピーカーを使ったピアノソロのコンサー トはピアニスト自身がサウンドチェックを出来ないという弱点がある。これは当たり前の話なのだが、リハーサルでピアノを弾きながら移動することは出来ないので、自分が弾いている音を会場の他の場所でチェックすることは出来ない。しかし、これが僕には大きなストレスだった。「Playing Piano with No Speakers」 ではそれに対して「スピーカー、マイクを一切使わないピアノの生音だけのアンプラグドなコンサートを行う」、つまりそこにあるピアノを演奏し、その生音を一切の拡張ナシにそのまま聴かせるという極限までシンプルなセッティングの中で、曲間もMCもアンコールも全て取り払って演奏してみた。実際にそのコンサートでは自分の指が弾いているピアノの音とホールの残響だけが演奏中も常に生々しく聴こえて、それまでのピアノソロのコンサートとは異なる感触と手応えがあった。

 

そのときに思ったのは、ピアノの生音はそのままに、残響のみをコントロールすることでピアノと空間の関係を新しく作ることができるのではないかということだった。弾いているピアノの音自体はスピーカーで拡張することなく、残響成分のみを様々なサンプリング・リバーブを使って変容させ、空間配置した 16チャンネルのスピーカーから再生する。言わばダブミックスのディレイのようにサンプリング・リバーブをピアノに対して使うのだが、元のピアノの音はあくまでも生音のままのほうが良いのでスピーカーで拡張はしない。これは想像上ではベストなセッティングで、現実には存在しない教会でピアノを弾いているようなイメージが僕の中には出来ていた。

 

結果的にこの試みは成功した。演奏はモニタースピーカーを使うことなしに最上に自然な残響の中で水の中を泳ぐように続き、会場は天井からピアノの音が降ってくるようで思わず上を見ながら陶然としたという感想が多数寄せられた。サウンドエンジニアリングは THE ENDの国内、国外公演をはじめ数年の僕のコンサー トPAを数多く手がけ、音響の志向性や好みを熟知している金森祥之さんを迎えて、これまで存在しなかったピアノと空間の関係を作れたと思う。このフォーマットは今後も更新しながら使い続けたいと思った。

 

また視覚的な情報は極限まで減らして暗闇と光の境界を作ることで演奏と聴取の集中度は驚異的に上がる。2年前のスパイラルホールでのコンサートでも照明を担当して頂いた高田政義さんに効果としての照明ではなく、ピアノの音と空間に対して光をどうす るか考えて欲しいとお願いした。ひとつのピ アノとひとつの光、空間の残響、この要素のみでこのコンサートは構成された。繰り返しになるがピアノの音はスピーカー で拡張しない。ただ、聴こえない音に耳をそば立てるような懐かしい緊張感を僕は好まない。なのでホールに対して十分な音量を確保できるピアノが必要だと考えてスタインウェイの Model-D というコンサートグラン ドを用意することにした。2年前にスパイラ ルホールで使用したピアノはエレベーターで 搬入できるが、生音のみのコンサートで使うには明らかに音量が足りなかった。スタインウェイのModel-Dは長さ274cmもあるフルコンサートのグランドピアノなので、当日会場脇の道路からクレーンで吊って搬入することになった。宙に昇るピアノ。偶然なのだが、これは僕の新しいプロジェクトとも一致した。

 

渋谷慶一郎