filmachine

2006-

ARTIST: Keiichiro Shibuya + Takashi Ikegami
PLACE/DATE:
MEDIA AMBITION TOKYO 2014 – 日本

2014年2月7日 – 2014年3月30日
六本木ヒルズ 52F(東京シティビュー)

 

Festival PARANOIA – フランス
2011年4月13日 – 2011年8月14日
Gare Saint Sauveur Boulevard Jean-Baptiste Lebas, Lille

 

Festival VIA – フランス
2011年3月24日 – 2011年4月3日
Espace Sculfort Avenue Jean-Jaurès, route de Valenciennes, Maubeuge

 

Festival EXIT – フランス
2011年3月10日 – 2011年3月20日
Maison des Arts Place Salvador Allende, Créteil

 

Transmediale.08 / PODEWIL – ドイツ
2008年1月29日 – 2008年2月10日
filmachine in Berlin was curated by Stefan Riekeles (JdP)

 

山口情報芸術センター (YCAM) – 日本
2006年8月9日 – 2006年10月9日
山口情報芸術センター (YCAM) スタジオB
特設サイト

 

CREDIT:
concept & composition
渋谷慶一郎 + 池上高志 (東京大学)

 

multiphonic 3-dimentional programming
evala (ATAK, port)

 

program development
大海悠太 (東京大学 / 池上研究室)

 

lighting control programming
真鍋大度、伊藤隆之

 

production assistant
maria (ATAK)

 

technical support
YCAM InterLab

 

Curated by 阿部一直 (YCAM)

 

CONCEPT:

filmachine[= film+machine] は、音楽の持つ時間/空間/運動構造を生成する人工的な音響空間であり、マシンである。

 

全体は直径約7.5m、高さ約5mの円柱状に均等につり下げられた8個ム3層から成る24個のスピーカー群と、そこから再生されるサウンドを完全制御する立体音響システムHuron、dbデータによって点滅するLED、それらを様々な高さや位置で体験するために、不均等に組み立てられた箱の集積から構成される。

 

オーストラリアのLake Technology社によって開発された立体音響システム・Huronは音像の定位、移動、配置を時間軸に沿って完全にプログラムすることが可能な強力なハードウェアシステムである。また、サウンドの運動構造の生成を体験する際に、固定された一つの理想的なリスニングポイントによる一人称的な聴覚体験ではなく、複雑な構造体の上を自らが動き回ることによって、高低差や位置による音響体験の差異を自発的に引き出すことが可能な空間を指向している。また、サウンドがこの円柱表面上を動き回るパターンには、螺旋運動の変型から、ローレンツアトラクターやレスラーアトラクター、ラングフォードの方程式などの応用が駆使されており、局在化したパターンから他のパターンへと遍歴を繰り返しつつ、複雑な運動を伴いながら、それぞれに異なる時間構造を持ったサウンドが変遷していく。

 

音と知覚の関係の中で、体感というベクトルが急激な進化を遂げたことは、ここ数年の急速な音楽におけるテクノロジーの普及、細密化と無関係ではない。しかし、それらはdb(音量)や高/低周波といった周波数原理から導き出される、言わば線形足し合わせ的な効果(エフェクト)に過ぎないとも言える。ここでは、それらに対して音の持つ運動性と異なった時間構造を持ったサウンドファイルの組み合わせによる知覚体験を提案する。立体音響システムHuronのプログラムによってコントロールされたサウンドは、スピーカーの位置とは切り離され、音像を移動、配置することが可能である。

 

次に、個々のサウンドの時間構造の生成であるが、これは2005年12月に東京/ICCで、渋谷と池上によって開始された第三項音楽理論によっている。第三項音楽とは、通常の作曲がベースとするドローンとメロディーに対して、第三項の要素として音の動きや音色をベースにした構成、メタ的な構造を導入しようという試みである。

 

具体的には、1992年に池上と橋本敬によって発表された論文「テープとマシンの共進化」のモデルのメカニズムを基本として、コンピュータの中で作られた数多くのmachine=プログラムによって生成されたサウンドファイルの組み合わせ、変奏、加工などにより音楽が構成される。この論文では、2つのノイズが論じられるが、それは外来性と内在性に起因したビットの揺らぎである。外来性のノイズとは、確率的な要因によって与えられるビットの揺らぎであり、内在性のノイズとは、アルゴリズミックな”マシン”によるビットの書き換えによる揺らぎである。与えられたサウンドファイルのビット情報は、外来性のノイズと、内在的なマシンによる書き換えによって、絶えず変遷していく。またそれぞれのマシンによって、様々な変遷の多様性が存在する。

 

例えば、マシンによる書き換えとは、インプットのサウンドファイルの波形情報を使って、その波形を消したり、何度も複製したりするプロセスであり、他にもサウンドファイルを生成する際に、サンプリングレートとdb値を干渉させるマシンや、複数のファイルの遺伝的アルゴリズムの応用による合体/複製、一つのテープをマシンとみなして、もうひとつのテープを書き換えるプログラムが試みられた。初期のサウンドファイルは、再帰的に書き換えられていくことで、まったく予測不可能なサウンドファイルへ、生命のような自律性を持って進化する。

 

もうひとつの重要なサウンドの時間構造は、ロジスティック写像やレスラーシステムのつくる、ある偏りを持ったホワイトノイズの階層的組み合わせである。ここで言う偏りとは、短い時間スケールでは明らかな方向性を持ち、確率的なランダムネスとの違いを指す。例えば同じロジスティック写像のつくるホワイトノイズでも、その構造は非線形性の僅かな違いによって、音色的には大きな差異をつくり出すことができる。そうしたカオス理論による音色生成と、そのレイヤーを積極的に使うことによって、音の膜におけるダイナミクスを作り出している。

 

全体のコンポジションは、こうした膜 [film] 的なものと、テープとマシン[machine] のモデルから生成された、複雑な時間構造を持つサウンドファイルの組み合わせ、そこに3次元の運動パターンを与えることで構成されている。現象学者フッサールが、主観的知覚構造の基底をなすものとして、縦の志向性と横の志向性のネットワークを論じている。縦の志向性とは、ここでいう空間構造であり、横の志向性とは時間構造である。空間構造は、ここで作られる3次元の円柱表面だけではなく、知覚における空間性、つまり記憶と身体性が織りなす知覚の構造である。これらは知覚の実験装置であり、コンピュータ技術と進化の方法論を融合して作り出された、第三項音楽の進化形態、音響構造が生成する空間/時間である。

 

つまりfilmachineとは、音の膜を生成するmachineであると同時に、サウンドによる空間/時間構造をつくる内部観測者的machineでもある。

 

文 / 渋谷慶一郎 + 池上高志

 

Photo: © Michael Sauer – filmachine in Berlin, February 2008