2005 12 18
12 18
ATAK@ICC二日目。第三項音楽コンサート。の日。
発表する5つの音楽はいずれも全くの新作で、この場合の新作は音の一つに至るまで、つまり以前作った音は1音も使わず、第三項音楽のプロジェクトが始まった今年の夏から作った音のみで構成した、という意味です。プログラムは数えきれないくらい出来てはブラッシュアップというプロセスを繰り返して、そのいくつかは池上さんのレクチャーでも具体的に説明されることになっている。
始まりと終わりというものがあるとすれば第三項音楽にとって始まりであるこのコンサートはICCの最後のイベントになるかもしれない、という前提に始まったものでした。幸いなことにそれは免れた(らしい)とはいえ、展覧会のテーマも含めてある種の句読点を巡る空気は偏在していて、それは僕にとっても同様でした。
サインウェーブルネッサンスは電子音楽の歴史をドライヴさせた。と佐々木敦さんはATAK000に寄せたテキストで書いています。そしてそのドライヴは2005年現在、洗練に向っていて、実際僕も000を作った後にその続編を構想したときに洗練というベクトルは当然のように現れてしばらくその方向で作業を続けていました。
しかし当然のことながら音楽にとって洗練とは音楽らしくなる、ということと非常に近接した関係にあって、今回についてもそれは例外ではないなということを深く実感していたのが今年の2〜3月でした。では音楽らしくなるどういうことか。それは音色のバリエーションは増えそれによって響きの豊穣さは獲得されて周波数的操作、もっと言えば音程的操作の比重が増大するという方向で、それはとりもなおさずオーケストラのスコアを埋めていくような古典的な意味での<構築>と音響デザインに向ってしまう。もちろん今後、そうした洗練は加速して充実した作品も生まれるとは思う。しかし僕に限って言えばそれはどうしても突き進むに足る方向なのか、という自問があって000を作ったときのようにデジタルもアナログも自然倍音を伴うピアノなどのアコースティック楽器も同じ地平で構築してある種の自然を獲得しよう、というテンションには至らなかったのも事実です。それは音楽的判断というよりも昨日の悠治さんと茂木さんの対談の言葉で言えば「面白い/面白くない」の「面白くない」という感じに近くて、とりもなおさず知っている音楽語法に戻る、ということをまだ僕は望んでいなかったとのだと思う。
それから以前の日記でも書いたように偶然、池上さんと出会って運動パターンやdbとサンプリングレートのような異なる階層の干渉によって音を生成する、つまり周波数的思考を取り払って音楽を構成するという第三項音楽に没頭していたのが今年の後半期で、今日発表したのはその理論の断片とプロトタイプの5つの音楽でインスタレーションの発表も同時期だったこともあって異常な難航を呈しました。実際今日も午前中に起きてから音楽の細かい手直しを延々と行って、最後完成したのはなんと17:40という笑。それは2曲目に発表した南雲方程式を元にしたものでこれが今回でも一番気に入っています。ま、とにかく17:40に完成してから大急ぎでタクシーに乗ってICCに向うと長蛇の列が出来ていて少しホッとして(笑)サウンドチェックへ。開演は予定通り19時過ぎにスタートしました(長らく並んで頂いた皆様どうもありがとうございました)。目の前に昨日大論戦を繰り広げた悠治さんと茂木さんが座っていて右にはこのコンサートのために尽力してくれたICCの畠中さんの顔が見えた。
このコンサートをやることになったときに前半にトークがあって司会者を相手に第三項音楽について話して、休憩を挟んでコンサート、みたいないわゆる啓蒙的なスタイルではなくプロトタイプでしか出来ない音楽とレクチャーが同時に進行していく、つまり思考のプロセスを塊(たましい、じゃないですよ。かたまり)でみせるようなが絶対にいいと思ったんだけどそれは正しかったと思う。
音楽について言えば初めてNUENDOをマスターで使ったんだけど、音の肉体性というか今までと違う運動性が現れたと思う。おかげで低音による拍節の強調なしにリズム的な持続は可能になって、奇妙なことにピアノを弾いているような満足感があった。これは収穫だったし第三項的だと思う。
もちろん様々な課題は残ったとはいえスタートはきれた。僕はそのことに満足している、というか非常に嬉しかった。2日間に渡って定員を遥かに超える来てくださった皆様。本当にどうもありがとうございました。
終了後の打ち上げは近くのエスニック料理屋で深夜まで続いて、悠治さんと池上さんは意気投合して遅くまで話していた。悠治さんに、いいコラボレーションだと思ったしなかなかこういう風には出来ない、今日のほうが面白かったな(笑)と言われたのは嬉しかった。
結局となりの居酒屋で二次会もやって27時頃帰宅。
終わったと同時にこれから何をすれば明確になったから成功と言っていいと思う。
関わってくれた全ての人に感謝します。