Playing Piano for maria+
2019
PLACE/DATE:
Sonorium
2019年9月11,12日 19:30開演
SUMMARY:
9月11日、12日に東京・永福町のsonoriumにて、 アルバム「ATAK015 for maria」発売10周年を記念したピアノソロコンサート「Keiichiro Shibuya Playing Piano for maria+」を行った。「ATAK015 for maria」は、2008年に急逝した妻・mariaに捧げて制作した自身初のピアノソロアルバムで、今回のコンサートでは同アルバムの全曲を収録順に演奏。
会場は「for maria」をリリースする1年前に、アルバムの原型となった同名のコンサートを行った永福町のsonorium。建築家青木淳+永田音響設計がピアノをはじめとするアコウステイックの音楽に特化して設計されたこのホールは、わずか100席という贅沢な空間。当日は、最小限の光だけで会場を暗転させ、スピーカーやマイクロフォンは一切使わない完全にアンプラグドな生音のみで演奏された。
CREDIT:
主催 アタック・トーキョー株式会社
問い合わせ info@atak.jp
協賛 Bang & Olufsen Store Japan
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COMMENTS:
「Keiichiro Shibuya Playing Piano for maria+」 について
今から10年前、2009年9月11日に発表した「ATAK015 for maria」は初めてのピアノソロ・アルバムのリリースというだけではなく、僕にとって大きな転機になった。
このアルバムは2008年に亡くなった僕の最初の妻・mariaに捧げられているが、結果的にピアノはその後の活動の中で大きな割合を占めるようになり、1998年頃から集中的に取り組んでいた電子音楽と組み合わせていくことになる。
その最初の成果がボーカロイド・オペラ「THE END」であり二番目の成果がアンドロイド・オペラ「Scary Beauty」で、これらは電子音楽的手法とピアノ的思考が奇妙なかたちで混合されて生まれた。
しかし1998年頃からmariaが亡くなる2008年までの10年間、僕はほとんどピアノに触れることもなくコンピュータと格闘していた。
新しい音楽をテクノロジーによって作る、ただそれだけに没頭して二人でATAKというレーベルも作って走り続けて、気づいたら一人になっていた。
彼女が死んだことでコンピュータでの制作は困難になり、活動休止か他の制作方法を見つけるか。毎日一人でそんなことを考えていたときに、たまたま自宅のアプライトピアノが寝っ転がっているソファから目に入り、ものすごく久しぶりにピアノの蓋を開けて弾いてみたらこれはマッサージだと思った。
それは、この部屋にいない彼女に対する、そして今までのように音楽を作れなくなっている自分に対するマッサージでもあり、とはいえ癒しという言葉に紐づく過剰な情緒性とは違うフィジカルで新鮮な発見があった。
今までとは違う感覚で今ならピアノを弾くことができる、その初めての感触と思いつきに僕は賭けてみることにした。
そして彼女の死から約3ヶ月後、彼女の誕生日の2008年9月11日に音楽葬をピアノソロのコンサートというかたちでやることにして、for mariaという曲をその日までに作ると決めた。
コンサートまでに曲が出来なかったら僕はもうダメだろう、音楽をやめた方がいいかもしれない。そう追い込んで彼女の遺骨が入った骨壷をピアノの近くの作曲机に置いて、毎日作曲に取り組み当日の朝にその曲は完成した。
その日の音楽葬/コンサートのことはあまりにも無我夢中でよく覚えていない。
ただ、会場に選んだ永福町のsonorium(ソノリウム)という白い教会のようなホールの響きが素晴らしく、非常に丁寧にチューニングされたスタンウェイのコンサートグランドと切れ目なく繋がる楽器のように鳴り響いていたことはよく覚えている。
建築家・青木淳氏の設計によってピアノに特化して設計されたこのホールは白い教会のようで、うず高い天高の半分の尺を地下に掘ってあり、その上にステージがありピアノがセッティングされていることでピアノの響きはホール、オーディエンスに対して完璧に調整されている。
今回のコンサートも当然、スピーカーもマイクも使わない完全にアンプラグドな生音のみの演奏を最小限の光だけの暗転したホールで行い、ピアノ、ホール、オーディエンスの境界は消失すると思う。
11年前、2008年の9月11日に「for maria」というコンサートをこのホールでやってから1年かけて僕は「ATAK015 for maria」というアルバムを作り、2019年9月11日に発表した。
それから10年経った同じ日に「for maria」全曲と近作を演奏するコンサートを、アルバムを作るきっかけとなった同じ会場でやることは感慨深い。
会場は限定100席で二晩、日本では久しぶりになるピアノソロのコンサートを共有できたら、その後にどんな発見があるのか楽しみにしている。
渋谷慶一郎