Music of the Beginning | KAIT
2021
「Music of the Beginning -はじまりの音楽-」
世界的に活躍するソプラノ歌手 田中彩子と音楽家 渋谷慶一郎、サウンドアーティストevalaが初共演。クラシックや電子音楽の枠を超えたコンサートを石上純也氏建築「神奈川工科大学 KAIT広場」で公開映像収録!
2021年12月26日(日)、ウィーン在住のソプラノ歌手 田中彩子と、音楽家 渋谷慶一郎のピアノとエレクトロニクス、そしてサウンドアーティスト evalaによるリアルタイムエフェクトやエレクトロニクスを合わせ、ジャンルを超えた初のコラボレーションが決定。会場は石上純也氏建築の神奈川工科大学 KAIT広場、本会場での初のコンサート実施。
【公演概要】
日程:2021年12月26日(日)
時間:12:30 開場、13:30開演 (公演時間 60分予定)
出演者:田中彩子、渋谷慶一郎、evala
場所:神奈川工科大学 KAIT広場
チケット料金:5,000円 定員に達し次第、販売終了予定
【出演】
ソプラノ:田中彩子
18歳単身ウィーンに留学。22歳でスイス・ベルン州立歌劇場にて同劇場日本人初、且つ最年少でソリスト・デビューを飾る。その後ウィーン、パリ、ロンドン等世界中で活躍の場を広げている。UNESCOやオーストリア政府後援で開催されている国際青少年フェスティバルの審査員を始め、社会貢献活動をメインにした一般社団法人Japan Association for Music Education Program代表理事。アルゼンチン最優秀初演賞受賞。アルバム『Esteban Benzecry』でイギリスBBCクラシック専門誌の5つ星受賞。Newsweek誌 「世界が尊敬する日本人100」 選出。ウィーン在住。
ピアノ、エレクトロニクス:渋谷慶一郎
音楽家。東京藝術大学作曲科卒業、2002年に音楽レーベル ATAKを設立。作品は電子音楽作品からピアノソロ 、オペラ、映画音楽 、サウンド・インスタレーションまで多岐にわたる。 代表作は人間不在のボーカロイド・オペラ『THE END』(2012)、アンドロイド・オペラ®︎『Scary Beauty』(2018)など。2020年に映画『ミッドナイトスワン』の音楽を担当、毎日映画コンクール音楽賞、日本映画批評家大賞映画音楽賞を受賞。2021年8月 東京・新国立劇場にてオペラ作品『Super Angels』を世界初演。人間とテクノロジー、生と死の境界領域を作品を通して問いかけている。
エレクトロニクス:evala
音楽家、サウンドアーティスト。新たな聴覚体験を創出するプロジェクト「See by Your Ears」主宰。立体音響システムを駆使し、独自の“空間的作曲”によって先鋭的な作品を国内外で発表。2020年「インビジブル・シネマ(耳で視る映画)」をコンセプトにした『Sea, See, She ーまだ見ぬ君へ』を世界初上映し第24回文化庁メディア芸術祭優秀賞を受賞。2021年、空間音響アルバム『聴象発景 in Rittor Base – HPL ver』がPrix Ars Electronica栄誉賞を受賞。公開予定のインスタレーション作品に『-a』(東京 21_21 DESIGN SIGHT / 2021年12月21日~2022年5月8日)
CREATIVE TEAM & STAFF CREDIT
クリエイティブディレクター:ムラカミカイエ(SIMONE)
映像監督:亀井慎太郎 (SIMONE)
グラフィックデザイナー:溝邊尚紀 (SIMONE)
映像制作マネージャー:大門 将大 (SIMONE)
サウンドエンジニア:金森祥之 (Oasis sound design inc.)
レコーディングエンジニア:鈴木勇気 (Oasis sound design inc.)
アシスタントエンジニア:工藤優 (Oasis sound design inc.)
照明:上田剛(RYU inc.)
照明補佐:杉本成也(RYU inc.)、帆足ありあ(RYU inc.)、田原聖子
レーザー:本田祐介(アカリセンター)
テクニカルマネージャー:尾崎聡
舞台監督:串本和也(RYU inc.)
イベント運営:KOANA株式会社
イベント制作:松本七都美(ATAK)、石井優香(株式会社Sonomano)、森田順子、金澤彩香
制作:ATAK
会場:神奈川工科大学 KAIT広場
主催:一般社団法人 Japan Association for Music Education Program
総合プロデュース:田中彩子
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「Music of the Beginning -はじまりの音楽- について」
渋谷慶一郎 2021.12.21
このプロジェクトはかれこれ10年の付き合いになるクリエイティ ブ・ ディレクターのムラカミカイエから突然の連絡がきて始まった。 聞くと「田中彩子というウィーン在住のソプラノ歌手がクラシックの枠を超えて新しいことをやりたいと相談を受けているから協力してくれないか」というものだった。
この「クラシックの人が枠を超えて何か違うことを」 という思いつきは多くの場合は失敗する。なので、 何を誰とやるかを完全に任せてもらえるならという条件で引き受け ることにした。もっと正確に言うと、 資料でもらったリゲティのオペラのアリアの演奏が素晴らしかったこと、非常に高音で歌っても声に尋常ではない透明感と伸びがあって耳に 痛くないどころか気持ち良かったこと、 しかも美人であることを確認して引き受けることにした。
そして、最初の打ち合わせで彼女が『ジェイムス・ ブレイクのカバーをやりたいと思ってます』 と伏し目がちにまだ緊張の取れない機械のような声で呟いたことが プロジェクトの方向を決めた。つまり「クラシックをポップに」 という前述した失敗が約束されたコースではなく、持っている技術や表現は最大限に発揮しつつサウンド・ プロダクションやアレンジ、アプローチは限りなく自由にするという方向でアイディアを出し合い曲目を決めていくことにした。
結果、『BLUE』や『Ida』といった最近ではあまり演奏しなくなった僕のピアノ初期の曲や彼女が歌ってみたいと言っていた『Scary Beauty』、リゲティやドビュッシーといった彼女のレパートリーは新たなアレンジで、JBだけではなくなんとAdeleもカバーすることにした。 このやり方だと編成は最小限にして演奏の自由度をフルに上げた方 がいい。そこで、このオファーの少し前まで映画音楽の制作で久しぶりに協働して改めて相性の良さを確認したエバラ君に連絡をして『 声のリアルタイムプロセッシングとドローンノイズを溶かすような 役割で参加して欲しい』とお願いをした。つまりこのコンサートは曲という時間の枠組みはありつつも歌い、発した声の断片はループ/変型され空間に漂い、ピアノや電子音との境界の媒介になりつつ歌や音楽はさらに続いていくというものになる。
そしてこのコンサートは映像作品を最終的な完成形態とするため、 オーディエンスは公開収録、撮影に立ち会うことになる。 言わば、映画の撮影現場に立ち会ってもらうようなものなので、曲の途中で止めてやり直すこともあれば、もしかしたら同じ曲を2回 演奏することもあるかもしれない。 つまりベストなテイクを追求するのでイチかバチかの普通のコンサートよりも良い演奏や違った演奏を聴ける可能性もある。これは生のコンサートか配信かというもはやあまり意味のない二項対立に対する違った角度からのレスポンスとアンチテーゼだと思って欲しい。
会場となる石上純也さん設計の神奈川工科大学のKAIT広場は地 底の白い空間の湾曲した天井に59個の長方形の開孔があり、そこから光と大気が差し込んでいる。その穴から地上に向かって芽のように音楽がすり抜けていき散布されればいいと思う。コンサートのタイトルは10年前にWIREDに書いた『終わりの音楽』というテクストに対応させるように「Music of the Beginning -はじまりの音楽-』とした。音楽は終わらない。様々な終わりのバリエーションが世界を覆うこの最悪な季節に、やる方にとっても聴く方にとってもはじまりの気配になるようなことが出来たらと思う。
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