紀尾井ホール, Tokyo (2024)

日時:
2024年12月19(木)19:00開演
会場:紀尾井ホール

PROGRAM
1.

Gnossienne No. 1-Erik Satie

2.

Mother-Keiichiro Shibuya

3.

Tutu-Keiichiro Shibuya

4.

Bus-Keiichiro Shibuya

5.

Spec-Keiichiro Shibuya

6.

Fratres-Arvo Pärt

7.

Spiegel im Spiegel-Arvo Pärt

8.

Furniture Renku-Yuji Takahashi

9.

Lightning Fields-Keiichiro Shibuya

10.

Painful-Keiichiro Shibuya

11.

Blue fish-Keiichiro Shibuya

12.

Midnight Swan-Keiichiro Shibuya

13.

Scary Beauty-Keiichiro Shibuya

14.

for maria-Keiichiro Shibuya

15.

Gymnopedie No. 1-Erik Satie

16.

Wht-Keiichiro Shibuya

Encore

Memories of Origin

CREDIT
ピアノ

渋谷慶一郎

ヴァイオリン

石上真由子

ステージデザイン

妹島和世

フレグランス

La Nuit parfum

セントデザイン

和泉侃

主催

アタック・トーキョー株式会社

協賛

株式会社 ポーラ、株式会社ソウワ・ディライト

協力

一般社団法人コミュニケーション・デザイン・センター

助成

公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京 [東京ライブ・ステージ応援助成]

「Living Room」について(渋谷慶一郎)

 

「家具の音楽」を今から約100 年前に提唱したのはエリック・サティで、「家具のように日常生活や聴く人の感情を妨げない音楽、意識的に聴かれることのない音楽」というそのコンセプトは後のケージや実験音楽、アンビエント・ミュージックの誕生にも影響をもたらした。

 

そして100年後の現在、ポップミュージックを中心に殆ど全ての音楽は「家具よりも気に障らないBGM」になり得ることが命題になっているので、長い時間をかけてサティは勝利したとも言える。

これはストリーミングの普及と共に加速した音楽の衰退の一形態でもあるのだが、音楽の聴取と受容の関係をそうしたメディア上の音楽ではなく劇場に限って考えてみたい。

 

劇場はサティが言う日常とは真逆の緊張度の高い空間だが、サティの「家具の音楽」は劇場や演奏会を前提として発想されている。そして、それは無理がある。

実際に彼は当時それが演奏された劇場で「聴衆に向かって、音楽を聞かずにおしゃべりを続けるよう怒鳴り散らし猛烈な勢いでロビーを駆け回った」そうだが、これはコメディだ。サティが否定したかった劇場の堅苦しさは100 年後の今もそれほど変わってないし、音楽を聴く場としてそれは悪くない。実際、さまざまなコンサートで「ステージと客席の境界を無くす」ような試みを見てきたが、ほとんどが散漫で芝居がかった失敗に終わっていたと思う。つまり劇場という枠組みで聴衆だけをコントロールすることはできないし、それは望まれてもいない。

 

ただ、従来の劇場音楽における会場一体となった古典的な緊張感のあり方をステージから揺さぶることは出来ないだろうか?ということはずっと考えていて、その実践と実験が今回のコンサートになる。

 

『Living Room』と題されたこのコンサートはステージに建築家・妹島和世さんがこれまでに製作された複数の家具と彼女の所有するミースやコルビュジエの家具などが混在して配置され、それらは演奏の合間に使用されたりもする。

一人が弾いているときに別の一人はソファで休んだり、演奏の準備をしたり、その演奏を聴いたり、という風に。

妹島さんとは今までにもいくつかのプロジェクトでご一緒させてもらっていて、今も進行中のプロジェクトがあるのだが、その造形的思考は音楽家の僕には常に完全に予想外の連続であり、「ステージに音楽家のための架空のリビングルームを作る」アイディアを思いついた時にすぐに相談させて頂いた。

 

そうすることで、今回のようにピアニストとヴァイオリニストが二人で演奏するコーナーとソロのコーナーを分けたり、その際にステージを出たり入ったりする仰々しさをなくし、その代わりにステージにある家具で休んだり弾いたりすることによって、ある種シアトリカルな緊張と弛緩を聴衆は観て聴くことになる。こうしてステージは従来のコンサートのように単線的でリニアな時間ではなく、サティが言うところの「生活」のような複層的かつ私的な時間と、従来の演奏会の持つ極度に緊張度の高い空間が重なればと思う。

 

そして、この多層的に捩れた空間で共演するのは、医師免許を持ち「手術の際に見る生きている人間の臓器の美しさを知っていることは演奏のアドバンテージがあると思う」と語り、同時に演奏機械を思わせる稀有なテクニックとセンスを持つヴァイオリニスト・石上真由子さんしかいないと思い召喚した。

 

そして最後に初めての試みを一つ。

今回のコンサートは僕が年末にやっているピアノソロのコンサートのシリーズの延長線上にある。そして、僕のピアノソロは「for maria」という2009 年にリリースしたピアノソロのアルバムに端を発している。

それまでノイジーで実験的な電子音楽だけをリリースしていた僕が一転してピアノソロによる極度に静かでメロディまであるアルバムをリリースしたことで、僕の人生は何度目かの小さくない転機を迎えた。

ピアノの音は最初にアタックがあり長い時間をかけて減衰しつつ消えていく。その音の消える間際まで変化し続ける過程は香りのようだとも思っていた。

 

La Nuit parfumはラヴェルやスクリャービンのピアノ曲をイメージした香水を楽譜と一緒にリリースするなど、音楽と香りの濃密な関係を追求している香水のブランドで、いつか一緒に仕事をしようと話していた。そして今回、前述したように僕のピアノソロのスタートになっている「for maria」をイメージした香りを作ってほしいとお願いすることにした。

調香は淡路島で植物から原料を採取する活動をしており、独自の香料の幅で稀有に独創性と作品性の高い香りを制作している和泉侃さんが担当した。このコンサートのために作られたその香りは当日の会場に微かに充満して、香水として会場でも発売する予定だ。

同時に会場で「for maria」の直筆、印刷両方を含むピアノ楽譜の発売もすることにした。

 

これまで書いてきたように、このコンサートは複層的に色々なことが起きる。

そして、それらはステージの上の緊張と弛緩の振れ幅を客席から密やかに体験してもらうことを意図している。

また、今回のコンサートではピアノもヴァイオリンも一切PA を使わず、そのことで楽器から直接出る音のアタックから減衰、擦れや消えていくまでの全ての過程を触れるように聴いてもらえる。

同時に妹島和世さんによるステージデザインもLa Nuit parfum と和泉侃さんによる香りが同じ空間に重なり、様々な知覚を刺激することになると思うが、これら全ての試みにエレクトロニクスを一切使用しないという僕にしてはいつもと違う方向に振り切ったコンサートとなる。

 

これが様々な感覚を啓く新しい経験になれば嬉しく思う。
同時にこのまだ僕も体験していない空間で自分の曲だけではなく、サティやペルト、悠治さんの曲などを弾くことを楽しみにしている。

  • Photo by Yutaro Yamaguchi

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  • Photo by Ryu Ika

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PROGRAM
1.

Gnossienne No. 1-Erik Satie

2.

Mother-Keiichiro Shibuya

3.

Tutu-Keiichiro Shibuya

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5.

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6.

Fratres-Arvo Pärt

7.

Spiegel im Spiegel-Arvo Pärt

8.

Furniture Renku-Yuji Takahashi

9.

Lightning Fields-Keiichiro Shibuya

10.

Painful-Keiichiro Shibuya

11.

Blue fish-Keiichiro Shibuya

12.

Midnight Swan-Keiichiro Shibuya

13.

Scary Beauty-Keiichiro Shibuya

14.

for maria-Keiichiro Shibuya

15.

Gymnopedie No. 1-Erik Satie

16.

Wht-Keiichiro Shibuya

Encore

Memories of Origin

CREDIT
ピアノ

渋谷慶一郎

ヴァイオリン

石上真由子

ステージデザイン

妹島和世

フレグランス

La Nuit parfum

セントデザイン

和泉侃

主催

アタック・トーキョー株式会社

協賛

株式会社 ポーラ、株式会社ソウワ・ディライト

協力

一般社団法人コミュニケーション・デザイン・センター

助成

公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京 [東京ライブ・ステージ応援助成]