ATAK008 Keiichiro Shibuya+Norbert Moslang+Toshimaru Nakamura

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デジタル/ノイズ/インプロヴィゼーション…世界最先端の音楽シーンをリードする3人によるコラボレーション7曲プラス各自のこのCDのために作りおろされた新作を2曲づつ収録した全13曲69分30秒の濃密な衝撃。
確定/不確定、デジタル/アナログ、演奏する身体とコンピュータ。
音色と運動による新しい複雑性と動的な音楽のフォルムがここにある。

渋谷慶一郎(コンピュータ、キーボード)、中村としまる(ノー・インプット・ミキシング・ボード、エレクトリックギターetc.)、ノルベルト・モスラン(エレクトロニクス) という破格のトリオによる新作がリリースされる。
今年3月に来日したスイスのサウンドアーティストのツアーから、東京で行われたセッションをもとにトラックダウンされたものだが、安易なポストプロダクションの余地がない演奏者自ら完璧なコラボレーションと言うに相応しい仕上がりになっているといっていいだろう。

モスランは、赤外線を利用した独自の改造エレクトロニクスのエキップメントを使用し、実際のスイスのメンバーのステージでも、秘境的な音の細密画を作り上げており、まさに圧巻だったが、そのモスラングと、インプロヴィゼーションの極点周辺をつねに飛走しているといっていい中村、さらに最も戦略的かつコンセプチュアルなサウンド・アート・レーベルATAKの渋谷が組むとなると、志向する音の高密度は並大抵のものではない。
微視的な音の襞が連続し、鳴っているはずの音のソノリテと揺らぎが、次に来たるべき音をクラッシュし同時に研磨する。
これは加算型の演奏、インプロヴィゼーションではない。
アルケミックな神経症に侵された転移と跳躍の音楽なのだ。

さらにこのディスクには、3人のパフォーマーによる最新のソロピースが、2トラックずつ収められている。
変調と消滅の美学をスタイリッシュに構成する中村としまるの新作トラックは、この部分だけでも、何度も繰り返して聴く楽しみに開かれている。
渋谷慶一郎のトラックは、最近、渋谷が複雑系科学研究者の池上高志との共同研究から提唱している「第三項音楽」の成果を反映したもので、それだけでもまずは聴いてみたいと思わせるものだが、特筆してすばらしいのはここに科学の定式理論の直訳といった素振りが全く見当たらない、やはりアルケミックなまでに彫琢されたプロセスを通じて、ようやく垣間見えた音を現象させていることである。
この瞬間を微分化したかの、不可視の時間の煌めきは美しい。

阿部一直(山口情報芸術センター(YCAM)・アーティスティックディレクター)