2004 07 17

07 17

青山ブックセンターの閉店にはびっくりした。

六本木も渋谷よりの表参道という地域もあまり行くことが
ないので熱心な利用者かと言えばそうではないし、そのセレクト
にすごいシンパシーを感じるかと言えばこれもそうでもないん
だけど間違いなく良質と言っていい部類に入る本屋だったと思う。

ただ、友達の日記や一般的風潮でもある「文化の衰退の象徴」
みたいな扱いにはちょっと同意出来ないところもある。

それは青山ブックセンターが閉店しなくてもこの国の文化傾向は
腐っているよということとは別に、僕の中には

WAVE⇔青山ブックセンター
タワーレコード⇔パルコブックセンター(出来た頃の)

というラインがあって
前者は今で言うセレクトショップ的、後者は百貨店、図書館的
という感じでこれはどちらがいいということではない。

で、言うまでもなくWAVEは大分前に閉店して青山ブックセンター
も遂に終わってしまった。
90年代というのは後者の百貨店的に網羅していくという方向が
圧倒的優位で一見するとこれは典型的な転換に見えるけど現状は
そんなに単純ではなかった。と思う。

それはWAVEのスタッフがタワーに入ったからとか言うことが
関係あるかどうかは知らない(ホントに知らない)けど、例えば
タワーについて言えば、大きな百貨店の中にバイヤーによる個人
商店が点在するという状況は僕が高橋悠治さんとやったライブ録音
をテープで発表した96年当時、既に存在していてそれは現在でも
ある意味では継続している。

当時、渋谷のタワーレコードの現代音楽コーナーのバイヤーだった
高見さん(彼は現在、EWEの敏腕プロデューサーで日本のジャズ
シーンの中心にいる非常に優秀な、というか売りたいものの数字を
出すということに関してちょっと天才的な人なのですが)大学生
だった僕が持ち込んだその手作りのミュージックテープをいきなり
300本買い取り(これは信じられない数字で、現在ではかなり人気、
知名度があるものでも初回は100だったりする。一つの売り場では)
面出しで売り続けて結果的に渋谷だけで800本くらい売れた。

これはその年の渋谷タワーの現代音楽の売り上げで1位になったり
して、ちなみに2位がマイケル・ナイマンで3位がフェルドマンと
いう素晴らしいもので(笑)これは自慢したいとかいうことでは
まったくなくて(というのも当時は僕はまったく無名の大学生だった
わけだから悠治さんによるところが殆どだ)要するに300本買い取り
ということを1人のバイヤーの独断によって可能な状況だったから
起こり得たわけで、しかも当時は流通業者を通さずに直接取り
引き出来たことも大きい。

要するに売る側(作り手とバイヤー)のスピードとテンションが直接
売り場に反映されていたわけで、これはある時期までの青山ブック
センターもそうだったと思う。

ある時期までの、と書いたのは明確にいつからか分からないからで、
ただそうしたエッジがとれていった時期というのは確実にあった。

これは僕が六本木のWAVEと青山ブックセンターに足繁く通って
たのが高校〜大学生の頃だったから当時は色々輝いて見えていた
ということも少なからずあるはずだけど実際、自主制作による
少数ロットの本などの取り扱いはここ数年激減していたと思う。

僕は妄信的なインディペンデント擁護派というわけではまったく
ないけど(優れているものの何倍もヒドイものもあるから)こう
したことは例えば、写真集やアートブックのセレクトに影響を及ぼす
のは言うまでもないし、実際に足を運ぶという動機を失わせるきっかけ
にはなる。
何よりもテンション(って何回も書いてると非常に頭が悪い感じで
イヤなんだけど・笑)と密接に関わってくる。

それだけではなく、例えば表参道店(こっちが本店だっけ?)に時々
寄っても思想、情報科学系のコーナーで話題の新刊と言われるもの
以外のリニューアルというのをあまり見なかった気がするし、それは
全体的な傾向で、ボリスヴィアンとかアドルノがたくさんある本屋
という印象になっていた。

六本木の店にしても建築関係の本が充実していることとヴィジョネア
が入ってくるのが早いということ以外はそれほど特記すべきことは
なかった気がする。
(そして、青山ブックセンターが持っていた先鋭的な部分は一時、
道玄坂にあったPROJETTという本屋に引き継がれていて、ここは
相当ナイスで僕は仕事の合間によく行っていたんだけど今は同じ
場所にはない)

とはいえ、それでも明らかに他の多数の本屋と比較した場合、良質
という部類に入るわけでそれは多分バランスという点に集約されて
いたと思う。

例えば渋谷で言えば僕はよく行くのはBook 1stとパルコブック
センターだけどBook 1stはアート系が徹底的に弱いしバルコは
libroがあるのが非常に助かるけど、どの分野も在庫数が少ない。

それ以外は雑誌屋というか、雑誌以外はYUKIとかのタレント本とか
実用書みたいなのが殆どという現状はかなり深刻なわけで、それが
マスだとすると青山ブックセンターはマスに対してエッジを発信
するという一番難しいポジションを取っていたわけで、ただこの
方向は現在では多分不可能だと思う。

つまりバランスは危険だ。

なんて言うことをこの前、青山ブックセンターで立ち読みしながら
考えていたことを思いだすと、やはり閉店はウソみたいだし残念だ。