2008 10 24

10 24

for mariaについて書くつもりだったんだけどなかなか時間が過ぎるのは早い。
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コンサートとしてのfor mariaについて書くのはまた今度にして、あの日の朝に出来たfor mariaというピアノのための曲について書きたい。
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あのコンサートをやると決めたときにmariaのための曲を書こうというのは同時に思いついたことなんだけど、出来るかどうか本当に自信がなかった。けど、これ出来なかったら負けだなというか才能ないなと思っていたのも事実で、まあ自分で賭けていたんですね。
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で、彼女の骨がある彼女のテーブルとその側にあるピアノで作曲を始めたんだけど、なかなか難しかった。すごいプレッシャーだったから。ここで下手なもの書けないなみたいな気持ちも強かったし、この曲で今までの自分のレベルの次にいきたいという気持ちもあったから。それを彼女も望んでいるだろうし。つまり単なる実験的なピアノ曲なんていうのを作るつもりは全くなかった。
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コンサートが迫った3日前になっても出来ているのは断片だけで、ただ幸いなことに核になる部分はカウンセリングに行くタクシーの中で思いついたからその場で手帳に書き留めておいた。多分、タクシーの中は静かだったのとこれからカウンセリングを受けられるという安堵感からリラックスしていたからだと思う。
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これはコンサートのMCでも話したけど、この曲は彼女に捧げられているけど単なるオマージュというよりは音による描写に近い。彼女と初めてデートしたときに夜の公園の池の近くで彼女が自分の生い立ちをポツポツと話し始めたときのことが印象深くて、曲の最初はそのときの感じをできるだけ正確に描写している。そのときに限らずポツポツ喋っていたけどね。その感じが僕は好きだったし、音としてもすごくよかったから。
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ただ彼女と過ごした時間やそれに伴う諸々は細かく描写していると超大作になってしまうし、これは出来るだけシンプルな音楽にしたいと思っていたから出来るだけ簡潔に書いた。
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で、さっき書いたタクシーの中で浮かんだ核の部分というのメロディーの反復というのは僕にとってすごく大きい意味がある。
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それは彼女の死に接したときのショックが僕はあまりにも大きくて、この時期に僕はそのフラッシュバックが1日に何度も反復して気が狂いそうになっていた。今もそれほど変わらないけど、とにかくそのフラッシュバックに対して音をつけよう、で、その音の連続というか反復に少しでも希望を入れることが出来れば自分自身が少しは救われるんじゃないかと思った。つまりフラッシュバックに悲劇としてだけではないサウンドトラックをつける必要が自分が死なないためにも必要だったんですね。
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だから結果的にその核の部分が出来たのはよかった。自分にとっても多分彼女にとっても。
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ただそういう断片は出来ていたものの、それを構成する作業はかなり大変で、断片的なインスピレーションというのは僕は常にある、というか頭の中でどんどん出てくるから問題ないんだけど、構成や構築にこそインスピレーションが必要で、ただそれはかなりセンシティヴな作業だから微量の安定剤でも鈍ったりすることがある。
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だからコンサートの3〜4日前から一切の安定剤を抜いて集中してその断片を曲にしていったんだけど本当に死ぬかと思った。神経が摩耗して。同時にPUBLIC IMAGEの音楽も作っていたりそれのリハーサルもやったりしていて、
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しかも同じ時期に母親に初期の癌が見つかって、その手術がfor mariaの次の日、9月12日に決まっていたんですね。まあとにかく本当にギリギリの状態だった。
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しかし音楽というのはなぜかいつも直前には完成するもので、for mariaという曲もコンサート当日の朝8時に完成した。
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で、なぜかそのときにアルヴォ・ペルトという作曲家のことを思い出したんですね。
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僕はペルトの音楽は10年くらいの間時々聴いていて、ひょっとするとこの人は凄いんじゃないかと思っていたんだけど、そのときに彼がなぜあそこまでシンプルなというか削ぎ落として作っているのかが直感的に分かった。
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ああこういう風に作っているのか、というのが技法的な意味ではなく分かった気がして、同時に自分の創作としても次のステップに行けたという確信があった。
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それはすごく特別な気持ちで、コンサートと次の日の母親の手術とPUBLIC IMAGEが終わった後の虚脱状態のときに持っていなかったペルトのCDを買おうと思って探していたらfur alinaというfor mariaとすごく似たタイトルのCDがあってびっくりした。
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で、それを買ってみたらすごくよかったんですね。すごいな、と久しぶりに思ったくらい。fur alinaは彼が数年間作曲を止めて教会音楽の研究に没頭した後、作曲を再開したときの曲で、その後の彼の作品の原点にもなっている、極限的に静かでシンプルで深い。ちなみに楽譜の書法は僕がPUBLIC IMAGEのために書いたangel passedというfor mariaと対になっている曲に似ていたりする。これも偶然だけど。
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で、ペルトのことを調べていたらもっと偶然があって、なんとmariaと誕生日が一緒だったんですね。9.11。fur alinaはいつかコンサートで弾こうと思っている。
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Alina - Arvo Part
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